私は高校生。
私は登下校時にバスを使っている。
今日も、当たり前のようにバス停でバスを待っていた。
部活をやっているので、帰るときはいつも真っ暗だった。
私はバス停の近くの自販機で飲み物を買う。
降りる場所は何にも無い田舎だからだ。
自販機にお金を入れた。
段々と寒くなってきたから温かい飲み物にしようかな。
するとある女性が自販機の横に座り、おもむろにギターを取り出した。
そして静かに弾き語りを始めた。
恐怖を覚えた。
なぜこんなところでいきなり弾き語りを始めるのか。
もっと駅とか人のいる所でやるならまだしも、こんな道の傍らで・・・・・・。
怪しいので顔は合わせない。
ただ聞くだけ。
しばらくするとバスが来たので乗った。
バスに乗ってからも何秒かは歌い声が聞こえた。
次の日も彼女は自販機の横でギターを鳴らしながら歌っていた。
私はやはり、目を合わせなかった。
それでも歌は聞いていた。
歌自体はいい歌だと思った。
次の日も彼女は来た。
段々と歌詞を覚えてきた。
彼女の持ち歌は3曲だということも分かった。
やがて頭から彼女の歌が離れなくなった。
いつまでも脳内再生される。
あのメロディが。
あの歌詞が。
あの歌が。
鳴り止まない。
次第に私は彼女を待つようになっていった。
バスが来ても彼女がいなければ乗らないときもあった。
彼女の顔はよく知らない。
でも彼女の歌はよく知っている。
いつの間にか私は彼女の歌のファンになっていた。
顔も名前も知らないのに。
雨の日、彼女は新曲を披露してきた。
楽しいのか悲しいのかよく分からない曲ではあった。
だが、これまでの曲よりも心を揺さぶられた。
雨音がギターの邪魔をするのが残念でたまらなかった。
歌い終わると同時に大きな水しぶきをあげながらバスが来た。
もっと聞きたい気持ちもあった。
だが日が暮れているということもあり、私はそのバスに乗った。
その日を境に、彼女が自販機の横で歌うことは無くなった。
彼女に何があったのかは分からない。
それでも、私は彼女がまた戻ってくると信じている。
私は彼女の曲を聴きたいのだ。
私は彼女を待っている。
顔も名前も知らないのに。