椎一郎(しいいちろう)は言った。
「もうお前となんか友達じゃない」
俺は栄太。
中学生だ。
椎一郎は、あんな奴じゃないことくらい知っている。
でも、あの発言には心底がっくりした。
俺は椎一郎と遊ぶのを2連続すっぽかした。
椎一郎はずっと待っていたのに。
もちろん、わざとすっぽかした訳じゃない。
どっちもうっかりだった。
もちろん謝った。
1回目は許してくれた。
2回目は・・・・・・。
椎一郎は、根は優しいやつだった。
思い返せば、俺は椎一郎のことを粗雑に扱っていたかもしれない。
俺は、椎一郎の白い心を傷つけたのだ。
あまりに悩んでしまい、弟の某助に相談した。
兄失格かもしれない。
「某助、どうしたらいいだろう」
「時間が経つのを待つしかないだろうね」
時間が解決してくれる。
そう思った。
しかし、一人になった椎一郎はいじめられた。
友達は俺だけだったのだ。
俺だけが頼りだったのだ。
その俺は今、何をやっているんだ。
自分で自分を責めた。
だが、いじめを止める勇気はない。
告げ口する勇気もない。
ただ見ているだけだった。
暴行されて、可哀想で声をかけた。
「大丈夫?」
「・・・・・・」
「本当に大丈夫?」
「・・・・・・どうせ口だけなんだろ?」
「いや、そんなことは・・・・・・」
「じゃあ助けてくれてもいいんじゃないか?」
「そ、そりゃもちろん俺も助けてやりたいと」
「嘘つき」椎一郎のいじめは収まらなかった。
むしろひどくなるばかり。
俺はついに、そのいじめてるやつに手を出した。
「いいかげんやめろよ!」
いじめは中断した。
俺は椎一郎に声をかけた。
「大丈夫か?」
「遅いんだよ!」
椎一郎に怒鳴られた。
最初、なぜだか分からなかった。
「こんな肉体的ないじめより、お前が『ただ見ているだけ』という精神的いじめをしている方が、よっぽどきつかったんだよ! 俺はもっと早くお前に助けてもらいたかった! 友達だということを証明して欲しかった! でもお前はただ見ているだけだった! ただ傍観しているだけ! 俺はお前のことを信じていた! しかし、お前は俺なんてどうでもよかった! 分かった! もうお前は俺のことなんか眼中に無いんだ! お前を信じていた俺が馬鹿だった! もう誰も友達じゃない! 第一お前も前から粗雑な扱いしてたしな! 俺はお前のパシリだったんだと、過去を振り返ってみて気がついた! 馬鹿野郎!
死ね! クソ野郎!」
椎一郎の心は白かったんだ。
黒く染めたのは、俺だ。
染めるつもりはなかった。
椎一郎は前より性格は悪くなった。
かなりの悪になってしまったようだ。
俺のせいだ。
人間は元々は白い人間しかいないのだ。
しかし、周りの環境によって段々黒くなっていくのだ。
あのときの椎一郎の表情が脳裏に焼きついて離れない。