時は1600年。
徳川家康率いる東軍と、石田三成が主導する西軍とが関ヶ原で戦った。
「がんばるぞーっ!」
彼はやる気満々であった。
秀忠軍は、下野の宇都宮から上野を抜けて、信濃に入った。
直接上洛はせず、上田城を攻め落としてから関ヶ原に向かう予定である。
なんせ、秀忠軍は徳川本隊、およそ3万8000人。
ひとつの城を攻め落とすなんて、余裕の与作である。
9月3日、秀忠は彼らに言った。
「上田城を受け渡せ!」
「まあまあ、焦りなさなんな。ほれ、あの辺でゆっくり話しましょうや」
そう昌幸は言って、国分寺で両者が話すこととなった。
「で、上田城、受け渡しますか?」
「急に言われても困る。わしがここで了解しても、家臣たちは了解せんかもしれん。お願いだから、少し考えさせてくれ」
「分かりました」
そうして一日が終わった。
次の日(9月4日)の未明、昌幸は返事をした。
「わしゃー、石田に加勢するぞーっ!」
これに対して、秀忠はめちゃくちゃ怒った。
「う、受け渡す、受け渡さないの話どころか、敵!? あいつ、マジふざけんなよ」
「調子乗ってますよね」
家臣が挑発した。
「まったくだ! 調子乗りやがって……」
「兵力ではこちらの方が圧倒的に勝るのに」
また家臣が挑発した。
「そうだ! 我ら徳川本隊の方が、兵力では圧倒的に勝る!」
「倒せますね」
「倒せる!」
「倒すしかないですね」
「倒すしかない!」
そして、いよいよ戦いが始まった。
9月5日。
秀忠は戸石城へ、真田信幸の軍を向かわせた。
戸石城は、真田幸村が守る城で、幸村と信幸は兄弟関係であった。
真田家が生き延びられるように、兄弟で東西に分かれさせたのだが、ここで兄弟同士戦わせるとは、秀忠も、なかなかである。
しかし、兄弟どうし戦うことは無かった。
これも、真田家の策略であった。
9月6日、いよいよ秀忠は上田城を攻めた。
まず、上田城下の田んぼの稲を刈り取った。
すると、真田軍の幾人が「やめろ」と秀忠軍に向かってきた。
「しめしめ」と、秀忠。
潜んでいた本多忠政軍によって、それらの者を攻めた。
全速力で上田城に逃げるは真田軍。
「待て!待て!」と、もの凄い勢いで追いかけるのは秀忠軍。
「しめしめ」と、昌幸。
ズダダダダダダダダーーーン!
なんと、いきなり門が開いて、鉄砲で一斉射撃。
秀忠軍先鋒は、「え!?え!?」と慌てふためく。
弓矢が飛んできて、大混乱。
「引き下がれ、引き下がれ!」と先鋒は後ろへ。
しかし、勢いに任せてここまで来た後ろの軍勢に押される。
押し合い、圧し合い。
ズダダダダダダダダーーーン!
さらに、密かに上田城の外にいた幸村軍によって、もうカオスな状態に。
さらにさらに、せき止めていた川によって、人も馬も流されて大変なことになった。
秀忠軍は大敗した。
秀忠は言った。
「昌幸、めっちゃ強い」
秀忠軍は大敗して、上田合戦を終えた。
しかし、ぐずぐずもしていられなかった。
9月8日、家康から手紙が来た。
「9月9日までに来い」
秀忠は愕然とした。
「え、無理じゃね?」
「無理ですね」
家臣は言った。
「え、なんで無理なこと要請してくるの?」
「きっと雨で使者が遅れたんですよ」
「『来い』も何も、今、上田だよ?」
「無理ですね」
「い、急ぐべきだよね」
「急いでも間に合いませんよ」
「そりゃそうだよね、まだ上田だもん」
「上田ですからねぇ」
「なんて言い訳する?」
「昌幸強くて遅れました」
「だめでしょ。父上カンカンだよ」
「とりあえず、先を急いだ方がいいですよ」
「でも、急いでも間に合わないでしょ?」
「当たり前じゃないですか」
「上田だもんね」
秀忠は走った。
愛する父のために。
我武者羅に走った。
雨で川が氾濫している。
馬が通れない。
秀忠は困った。
しかし乗り越えた。
様々な障害を乗り越えた。
全ては、愛する父を怒らせないために。
「あー、これ秀忠来ないな」
家康は察した。
本多忠勝は言った。
「今、彼らは全速力で来ているはずです……。お願いです。彼らのためにどうか待ってあげてください……。彼らは戦力になるはずです……」
「いや、遅刻してますから。戦力外です。早急に戦いましょう」
井伊直政は言い返した。
「よし、直政の言う通りだ。開戦だ、開戦」
そして、関ヶ原の戦いは9月15日に、7時間という速さで決着がついた。
その頃秀忠軍は。
「急げ!まだ戦いは始まっていないはずだ!」
「あれ、何か来ましたよ」
家臣が指を指す方向には使者が。
「関ヶ原、終わりました」
「なんですって!?」
「関ヶ原の戦い、終わりました。そして勝ったのは」
「終わった!?」
「……勝ったのは」
「終わった!?」
「終わったっつってるだろ!」
秀忠は愕然とした。
家臣から口々に、「あーあ」「だめじゃん」との声が漏れる。
秀忠は怖かった。
父・家康と目を合わせるのが怖かった。
それもそのはず、秀忠は天下分け目の戦いに間に合わなかったのだから。
おしまい
父上は案の定怒っていた。
近江城まで謝りに行ったのに、顔も合わせてくれない。
もう、絶対に遅刻しない。
何が何でも、遅れてはいけない。
今度遅れたらどうなることやら……。