日に日に温かい風が吹くようになってきた。
庭に積もっていた雪も段々溶けてきたようだ。
春の足音が、少しずつ、また少しずつ大きくなっている。
この町は、田舎だ。
辺り一面に田んぼが広がり、すぐそこに山が見える。
俺はずっと、こんな田舎は嫌だと思い続けていた。
だが、そんな俺は春から上京することになった。
東京の大学に行くためだ。
もうすぐ俺はこの町を離れる。
そう考えると、不思議とこの町も恋しくなってくるものだ。
家の中から窓を通して見る、外の景色は魅力的だった。
たまらず、用も無いのに外に飛び出してしまった。
ひとまず、俺はもうすぐ離れるこの町を散策することにした。
何年もいたこの町を散策するなんて、おかしな話である。
道路にはまだ雪が積もる。
目の前には、見慣れた光景が延々と広がっている。
しばらく歩くと、いつもの梅が咲いていた。
毎年俺は、この梅が咲いたのを見て、春の訪れを感じていた。
もう少し歩き、いつもの桜があったが、桜は咲いていなかった。
この桜は、雪が溶けてしばらく経つ頃に満開になる。
今年も例年通り、4月には満開になるだろう。
だがその時に俺はもう、この町にはいない。
しばらく町を散策しているうちに気がついたことがある。
この町は、恐ろしいほど代わり映えしない。
子供の頃と、ほとんど何も変わらない。
変わらないのだ。
それが退屈で、安心だった。
俺はいつもの道で、再び家に戻った。
この雪が溶けた頃に、俺はこの町を離れる。
だから俺は、今年の春の訪れを寂しく感じる。
でも、すぐに離れるわけではない。
今積もっている雪が溶けるまでは、この町にいるのだ。
この町の自然を味わおう。
この町の春の訪れを味わおう。
この雪が溶けるまで・・・・・・。